
わずか1、2回の投与が、長く続いたうつ症状を大きく変える可能性がある―精神展開剤(サイケデリックス)による治療は、従来の薬物療法とは異なる発想を精神科臨床にもたらしつつある。精神展開剤の臨床研究は1950~60年代に盛んに行われたが、社会的混乱と厳しい規制により長く中断された。しかし今世紀に入り、厳密な研究手法のもとで再評価が進み、「サイケデリック・ルネサンス」と呼ばれる展開を迎えている。なかでもシロシビンは、セロトニン5-HT2A受容体への作用を介して知覚、自己認識、情動、認知の柔軟性に変化をもたらし、治療抵抗性うつ病などへの速やかで持続的な効果が期待されている。われわれは、治療抵抗性うつ病患者12名を対象に、本邦初となるシロシビン療法の単群オープンラベル試験を実施した。11名が治療を完遂し、抑うつ症状は投与8週後まで改善を示した。重篤な有害事象は認めず、観察された有害事象は一過性であった。さらに、シロシンの薬物動態や脳画像の解析を通じて、「なぜ効果が生じ、持続するのか」という問いに迫っている。本講演では、期待と限界の双方を見据え、日本の患者に安全に届けるための人材育成、法規制、倫理、産学連携を含む社会実装への道筋を展望する。
演者ご略歴
内田 裕之 先生
慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 教授
【学歴】
1998年 慶應義塾大学医学部卒業
2006年 同大学院医学研究科博士課程修了、博士(医学)
【職歴】
2006年~2009年 トロント大学医学部精神科にて臨床・研究に従事
2009年~2022年 慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室 助教→専任講師→准教授
2023年~ 同教室教授、慶應義塾大学病院副病院長を兼務
【専門領域】
・臨床精神薬理学
・脳画像研究
・精神疾患の病態解明と新規治療開発
【主な役職】
・Collegium Internationale Neuro-Psychopharmacologicum(CINP)事務局長
・日本精神神経学会 理事
・メンタルヘルス臨床研究支援財団 理事長
・慶應義塾大学医学部柔道部 部長
